マーケティングリサーチとデータ分析の境界線|30年の実務から見える両輪の使い方

「リサーチをお願いしたい」「データ分析をお願いしたい」――中小企業の経営者の方々からいただくご相談ですが、実務の立場から見ると、この2つは重なりつつも別の役割を持っています。同じ「数字を扱う仕事」に見えて、生み出す価値と使いどころが違うのです。

本記事では、電通ヤング・アンド・ルビカムでのブランドリサーチ・ディレクター27年の経験と、その後のデータ分析実装の両方を通じて見えてきた、両者の 境界線両輪で使う意味 をご紹介します。

「同じ」と思われがちな2つの仕事

マーケティングリサーチもデータ分析も、確かに数字を扱う仕事です。しかし、実務での役割は次のように分かれます。

  • マーケティングリサーチ:まだ言葉になっていない「なぜ」を発見する仕事。顧客の心の中を、質問・観察・対話で言語化する
  • データ分析:すでに存在する数字から、「どのくらい」「どう動いているか」を明らかにする仕事。事実を測定し、パターンを抽出する

リサーチは問いを立てる仕事、分析は問いに答える仕事 と言い換えることもできます。片方だけでは、意思決定には届きません。

両者の境界線を、3つの視点で

視点1:扱う問いのタイプが違う

リサーチが得意なのは、「なぜ」の問い です。「なぜ、このお客様は他社ではなく当社を選んだのか」「なぜ、初めて買った後、二度目が来ないのか」「なぜ、この商品カテゴリだけ、返品が多いのか」。こうした問いは、既存のデータをいくら並べても答えが出ません。顧客の頭の中に入って、聞いて、観察して、はじめて輪郭が見えてきます。

一方、データ分析が得意なのは、「どのくらい」「いつ」「どこで」の問い です。「どの商品がどのくらい売れているか」「どの月に売上が落ちるか」「どの地域で伸びているか」。数字がすでにある領域では、リサーチより早く、大量に、正確に答えが出せます。

問いが「なぜ」か「どのくらい」か。ここが最初の分岐点です。

視点2:向き合うデータの性質が違う

リサーチが扱うのは、多くの場合、少数だけれど深いデータ です。10人のインタビュー、5社の観察、30枚の自由回答。1件あたりの情報量が濃く、行間を読み、仮説を立てるのが仕事です。

データ分析が扱うのは、大量だけれど浅いデータ です。100万件の購買履歴、1万件のアクセスログ、5年分の月次売上。1件あたりの情報量は少なくても、束ねることでパターンが浮かび上がります。

これを一言で言うと、リサーチは深さ、分析は広さ。この2つは補い合う関係にあり、対立するものではありません。

視点3:意思決定に運ぶ価値が違う

リサーチが意思決定に運ぶのは、「この方向で間違いない」という 確信の質 です。数字だけでは踏み切れない判断も、顧客の生の声と観察に裏付けられれば、腹を決めて動ける。中小企業や地方の事業者ほど、この「腹の据わり方」が経営を左右します。

データ分析が意思決定に運ぶのは、「この方向でどのくらいの効果が出るか」という 量的な見通し です。仮説の効果を数値で試算できれば、資源配分の議論が具体になり、社内合意が取りやすくなります。

確信の質と量的な見通し。 どちらか一方だけでは、意思決定は片足で立とうとするようなものです。両方が揃ってはじめて、走り出せます。

中小企業が両輪で使うと、何が変わるか

中小企業では、リサーチも分析も、大手のように分業で持つことは現実的ではありません。しかし、両方の視点を意識するだけで、次のような変化が起きます。

  • 数字だけを見て焦って動くことが減る(リサーチ視点)
  • 感覚だけで判断して失敗することが減る(分析視点)
  • 会議で「なぜ」と「どのくらい」を分けて話せるようになり、議論が噛み合う
  • 経営者と現場が、同じ地図を見て話せるようになる

大切なのは、両方を 同じ規模でやろうとしないこと です。まずは3〜5人にじっくり話を聞く(リサーチ)。並行して、手元の売上データを月別・カテゴリ別に見る(分析)。この規模なら、中小企業でも今週から始められます。

まとめ:リサーチと分析は「対立」ではなく「両輪」

両者の境界線を、最後にまとめます。

リサーチは「なぜ」を発見し、分析は「どのくらい」を測る。深さと広さ。確信の質と量的な見通し。

「うちはリサーチはやってないが、データはある」「うちはお客様の声は聞いているが、数字は苦手」――多くの中小企業は、どちらか一方に偏っています。もう片方を 少しだけ 補うだけで、意思決定の質は目に見えて変わります。両輪で走らせる。この視点が、中小企業のデータ活用を、次の段階に押し上げます。

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